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ストーリーがある! 弘前公園の桜5選

52品種約2600本におよぶ弘前公園の桜。
一番人気と言えばやはりソメイヨシノですが、日本一の桜の園ならではの物語を宿した木々も点在します。
知る人ぞ知る、弘前公園にある興味深い桜たちを紹介します。
弘前さくらまつり終盤に見ごろを迎える品種もありますので、お出かけのご参考にしてください。

「1本の桜を訪ね巡る楽しみ方を」

ソメイヨシノの満開時期には見渡す限り桜一色となる弘前公園。
無数の花びらで目もくらむような光景に酔いしれるのは醍醐味でしょう。
一方で、園内にある桜のうち「2600分の1本」を探す、通好みのお花見も。
弘前公園の桜を管理するチーム桜守の橋場真紀子さんは「1本の桜を訪ねるように巡るのも楽しみ方の一つ」と話します。

カスミザクラ

場所:二の丸、弘前城植物園ほか

東門のカスミザクラ(正徳桜)=2024年4月26日撮影
東門のカスミザクラ(正徳桜)=2024年4月26日撮影

国内で確認されている野生種の桜10種類のうち、弘前公園には6種類が植栽されています。カスミザクラもその一つ。
園内の古木と言えば二の丸にある園内最長寿のソメイヨシノが有名です。
ですが、桜の古木は二の丸・東内門近くにあるカスミザクラを外しては語れません。
通称「正徳桜」と呼ばれる二の丸のカスミザクラは、その名の通り、1715年(正徳5年)に藩士の手で植えられたものの1本。
樹齢は300年を超え、園内で最も古い桜の一つです。
「侍が愛でたであろう桜。当時の服装がどうだったか、どう楽しまれていたかに思いを馳せることができる」と橋場さん。
「園内の桜の中でも非常に大事にしていかなければならない桜の一つ」とも話しています。

弘前城植物園内の三の丸庭園のカスミザクラ=2024年4月26日撮影
弘前城植物園内の三の丸庭園のカスミザクラ(位置は右下図参照)=2024年4月26日撮影

弘前城植物園内の三の丸庭園にあるカスミザクラは、後方に植えられたエドヒガンとの取り合わせが見事です。
植物園は藩主・津軽家の殿様の別邸があった場所で、たくさんの人でにぎわう祭り期間中でもゆったりとした時間が流れているような雰囲気です。
混雑時期にもゆったりとお花見ができる穴場かもしれません。

弘前枝垂れ

場所:本丸
満開を迎えた弘前枝垂れ=2024年4月15日撮影
満開を迎えた弘前枝垂れ=2024年4月15日撮影

横に広がる枝ぶりが実に立派な、本丸にあるシダレザクラ。
園内のエドヒガン、シダレザクラ、ソメイヨシノの中で最も早く咲き、花弁の枚数が時々7~8枚になります。
一般的なシダレザクラと異なる特徴があることから「弘前枝垂れ」と呼ばれています。
石垣修理工事により移設中の天守が背景になることでも人気のスポット。

本丸を代表する桜には戦前時代の「軍都・弘前」に関連するバックストーリーがあります。
弘前枝垂れは1914年に在弘宮城県人会の寄付により植栽されたもの。
同時期には二の丸大枝垂れ、御滝桜などが植えられています。

弘前城天守側から見た満開の弘前枝垂れ=2024年4月15日撮影
弘前城天守側から見た満開の弘前枝垂れ=2024年4月15日撮影

当時の弘前公園は、弘前市で結成された旧日本軍・第八師団の兵器製造・管理を担う重要施設が置かれ、東北地方一円から集められた兵士で構成されていました。

【旧第八師団に関連する弘前市内の現存建築物】
旧弘前偕行社(HIROSAKI Heritage)
旧第八師団長官舎(弘前市長公舎)(HIROSAKI Heritage)

在弘宮城県人会が送ったシダレザクラは長寿の桜として知られています。
仲間たちの団結や末永い友情の象徴としての願いが込められていたのではないでしょうか。
今では公園を代表する桜の一つになっています。

同じく本丸にある御滝桜は枝が長いのに対し、弘前枝垂れは枝が短めでコンパクト。
シダレザクラにはこうしたタイプの違いがあり、弘前公園のチーム桜守は品種の特徴を見ながら、より見栄えがするよう管理しているそうです。

満天姫(仮称)

場所:北門
満開の満天姫(仮称)=2024年4月15日撮影
満開の満天姫(仮称)=2024年4月15日撮影

弘前公園に弘前藩の歴史を語るうえで欠くことができない女性の名である「満天姫(まてひめ)」と呼ばれる桜があることをご存じですか?
満天姫は徳川家康の養女で弘前2代藩主・津軽信枚の正室として嫁いだ女性であり、波乱万丈の生涯の中、滅私の心で津軽家を守るために尽くしました。
その献身ぶりで、後の世を生きる弘前の人々にも慕われている存在です。

詳しくは弘前公園の歴史

2024年4月12日撮影の満天姫(仮称)の花
2024年4月12日撮影の満天姫(仮称)の花
2024年4月15日撮影の満天姫(仮称)の花
2024年4月15日撮影の満天姫(仮称)の花

満天姫は北門近くにあるソメイヨシノとエドヒガンの掛け合わせ品種。
満天姫はあくまで仮称で、弘前市民には「あの北門の桜」と言われていたとか。
掛け合わせ品種であること以外の詳細はわからず、不明種として扱われています。
咲き始めはとがった形で少し濃い目の色をした花ですが、満開に近づくにつれ円形に近づき、ふくよかで真っ白な花に姿を変えていくのが特徴。
園内ではソメイヨシノよりも先に花開きます。
北門のそばで奥ゆかしくも美しく咲く姿が満天姫の名に重なるようです。

天の川

場所:北の郭、ピクニック広場

北の郭で満開を迎えた天の川(位置は右下図参照)=2024年5月1日撮影
北の郭で満開を迎えた天の川(位置は右下図参照)=2024年5月1日撮影
ピクニック広場の天の川=2024年5月1日撮影
ピクニック広場の天の川=2024年5月1日撮影

多くの品種が下向きに花を咲かせる桜の中で、上向きに花を咲かせる点で珍しい桜が天の川です。
弘前公園ではピクニック広場、東門側の石橋を渡った手前側入り口の近くにあるほか、祭り期間中に展示されている大型鉢の中や、北の郭・武徳殿奥側の土手にも植えられています。

北の郭にある天の川の花=2024年5月1日撮影
北の郭にある天の川の花=2024年5月1日撮影

このうち北の郭にある木は植栽年代が未特定ですが、橋場さんによると少なくとも30年は経過しており「当時、桜を見られるスポットにしたいと思って植えられたのかな?」とのこと。
花の咲き方に特徴のある品種ですが、天の川という名前も印象的な桜。
「一般的な名付け方としては『上向き桜』とかになるところを『天の川』と名付けた点に日本人の桜に対する愛情や桜を愛でる文化を感じる」と橋場さん。
枝が横に広がらない品種なため、庭植えにもちょうどいい品種だそうです。

御衣黄

場所:弘前城植物園など
弘前城植物園の御衣黄=2024年5月1日撮影
弘前城植物園の御衣黄=2024年5月1日撮影

御衣黄は桜の品種の中では珍しい、さわやかな黄緑色の花色が特徴の桜。
黄緑色の桜と言えば、弘前七桜の一つにもなっている鬱金が知られていますが、御衣黄と鬱金は同じDNAを持ち、枝変わり関係にあります。

この御衣黄、同じ名前でも異なる咲き方をする個体があります。
①小輪で緑色の強い花が咲くもの。②中輪で薄黄緑色に部分的に濃緑色のすじが入るように花が咲くもの。
弘前公園では①が東門・追手門付近に植栽の鉢植えのほか、②が弘前城植物園にあり、見比べることができます。

鉢植えの御衣黄の花=2024年5月1日撮影
鉢植えの御衣黄の花=2024年5月1日撮影
弘前城植物園にある御衣黄の花=2024年5月1日撮影
弘前城植物園にある御衣黄の花=2024年5月1日撮影

「花を見ると全く違う桜で、詳しい解析や研究が待たれる品種。弘前公園を訪れて違いを確かめてもらえれば」と橋場さん。
現在はそれぞれの系統が同じ御衣黄とされていますが、将来、別品種として認定される可能性があるかも…!

弘前公園の桜の種類についてはこちら
弘前公園の桜の種類

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